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Discipline




聖地。
今は皇帝軍に占拠されている宮殿。
その一室で、少年の、否、少年の姿を借りた青年の笑い声が響いていた。


「いつまで笑っているつもりだ、ジョヴァンニ。」
それを耳にし、黒髪の青年は部屋を覗いて眉を顰める。
「だって、あいつらときたら、自分達が騙されてるとも知らないで!これ以上の喜劇があるかい?くふふふ、はははは・・・・・・」
金の髪を揺らしながら、彼は尚も笑い続ける。
「自分達は未来永劫裏切られない、あの方に選ばれると信じているんだよ?バカだよねぇ〜!」

「・・・・それは、私たちにも言えることではないか?」
「へ?」
「あの方に選ばれると信じてるのは、ひょっとしたら私たちの方ではないか?」
尋ねられた者は、その言葉に一瞬きょとんとし。
けれど、すぐにその口元を再び歪める。
「おやおや・・・・えらく弱気な発言だねぇ、カイン先生?」
「そう考えられないかと言っているだけだ。」

「う〜ん、そうだねぇ・・・・・・」

考え込む振りをしながら、彼はその場から窓際に歩き出す。
「あの方が『アリオス』・・・だっけ?・・・として生きて、このままあいつらのところにいる可能性も無きしもあらず、ってとこかなぁ。」
そして出窓に手を付き、面白そうに参謀を振り向いた。
「そう思うか?」
「まぁねぇ〜。どうやら、あの姿の全てが大嘘って訳でもなさそうだしぃ。あれはあれで楽しそうじゃない、『見掛け上』は、だけどさぁ。・・・・・あぁ、これは嘘じゃないよ。僕の洞察力は認めてくれてると思うけどね。」
くすくすと希代の大嘘つきは、煙に巻くように捲し立てる。

「けど・・・・・カイン?」
「なんだ?」
「君は、それでもいいと思ってるんじゃないのかい?」
「・・・・・・・・ジョヴァンニ。」
「やだなぁ、怒んないでよ。ひどいなぁ、僕は聞かれたから、答えただけなのにさ。」
睨まれて少し首を竦める。
「他の連中は知らないけどさぁ、君の場合、裏切られたってついて行くんだろう、レヴィアス様に。裏切られたとさえ思わないんだろう?それなら、あの方がどこにいようが関係ないってことさ。・・・・・・たとえ、君を憎むような奴等のところでもね。」

べらべらと余計なことを喋られ。
カインは少し後悔した。
しかし、それは確実に青年の心を突いていた。

どこにあろうとも。
どのような姿をしていようとも。
十年前にあの方と命運を共にすると。
あの方の望む道を進むと。
心に決めたから。

「まぁ、安心しなよ。たとえどんなにあの方が『アリオス』の生活に憧れたって、それが虚像だって十分自覚していらっしゃるよ。だからこそ、迷いも出るんだろうけどねぇ。」
「こちらを選ぶと?」
「まさか。僕らに執着があるわけないだろう?まぁ、少しは負い目はあるかもしれないけどね。・・・・・『復讐』を、選ぶんだよ。ふふっ、今更捨てられる訳ないよねぇ、レヴィアス様が自らの一族への憎しみを。そう、今更ね。出来る訳ないのさ。」
残酷な微笑みを浮かべて、少年の姿を模した彼は朱い瞳を細める。
「偽りの世界はあの方にとって、さぞ心地よいだろうねぇ。でも、僕を復活させた時点で、いや、この宇宙に降り立ったその時から、後戻りなんてもう許されないんだよ。最初っから『アリオス』なんて存在、許されちゃいなかったのさ。レヴィアス様はこの宇宙を完全に侵略支配し、あの宇宙へ帰らなきゃならない。あの姿のまま過ごすことなんて、あの方にとっては、かえって辛いことなんだよ、カイン。いろんな意味でさ、ふふふ・・・・心の奥にどんな望みがあったって、無駄だよ。それこそ言い古された常套句の通り、」


「どちらかが倒れるまで終わらないのさ、この戦いは。」