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心の輪郭




「・・・・・なんで俺のベッドで寝てるんだ、こいつ。」

『酒場』から帰ってきたアリオスは、宿屋の割り当てられた部屋で天使が寝ているのを見付け、眉を顰める。
一応、ルームナンバーを確認してみるが、当然間違っておらず。
そもそも間違えるほど二人の部屋は近くない。

「おい、起きろ!アンジェリーク!」
「・・・・・・ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜?」
揺り起こしてみると、うっすら蒼い寝惚け眼が覗く。
「ったく、何で俺の部屋で寝てんだよ?ほら、自分の部屋に戻れ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・なんで?」
寝返りをうって、ぼ〜っとさせていた再び目を閉じてしまう。
「おま・・・・・っ!」
「寒いから・・・・・・・」
「は?」
「雪が降って寒いから・・・・・・・お布団二枚なら暖かいと思って・・・・アリオスのとこに、自分のお布団持って来たの・・・・・それでやっぱり暖かいから・・・・ここで・・ね・・・むっちゃ・・・・・」
「・・・・・・・・」
だらだらと支離滅裂に話す女王に、彼は脱力して言葉が返せない。
「それに・・・・・・人が一番安心してあったかいって感じ・・・・るのは、人の体温なのよぉ・・・・?」
「?!」
そのセリフにさっきとは別の意味で絶句するが。
一瞬のうちに、呆れ顔になる。
なぜなら、取り様によってはかなりの爆弾発言をした張本人の表情は、これ以上ないくらいの屈託のない寝顔そのものだったから。
彼に言わせると、マヌケ面だが。

・・・・・ったく。
ようするに、こいつは俺を男だと思ってないんだな。
警戒心がないのか。
度胸があるのか。
まさか、敵の大将の褥に自ら潜り込んでいるとも知らずに、な。
自分が救世使だという自覚があるのか、おまえ?

・・・・・・・仕方ないな。
俺がこいつの部屋で・・・・・・・

髪を掻き揚げて、布団を一枚剥ぎ取ろうとするが。
「アリオス・・・・」
袖をつかまれててしまう。
「・・・・・・・おい、放・・・・」
「あの、ね・・・・どんなに大切な人だって、どんなに見つめていたって、全てを・・・判り合えないのは、当然だと思うわ。だって・・・・その人は、アリオスじゃないんだもん。わたしなんて、自分のことだって判らない時が・・・・ある、もの。そう考えると・・・みんな、誰でも一人ぼっち・・・・なのかもしれないけれど・・・それでも、触れれば暖かいでしょう?側にいれば、伝わるものもある・・・・・んじゃない、かな?馬鹿・・・みたいに見ているだけでも、よかったんでしょう?だって、わたしも、・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ったく、おまえって奴は。」
言いたいことを言って、すーっと寝息を立てて寝入ってしまったらしい少女に苦笑する。
「寝言で説教かよ。それとも、ホントに誘ってんのか?」

馬鹿が。
俺が判りたい奴は、もうぬくもりなんてないんだ。
とうの昔に冷たく・・・・・・

―――――――――― 本当に?

心のどこかで尋ねる声が聞こえる。
だがそれを振り払うように、アリオスは頭を振り。
諦めるように溜め息を吐く。

「・・・・・・ジュリアスに知れたら、大目玉だぜ?」
クッと笑いながら少女をベッドの向こう端に移動させて、自分が寝るスペースを作る。
「ガキは体温が高いからな。そりゃ、暖かいのは当然だな。」


多分、朝に見られる少女の驚いた、もしくは平謝りする、ひょっとしたら真っ赤になって怒る顔を想像しながら、彼はベッドに潜り込んだのだった。