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佳人の意趣




「あれ〜、ゼフェルがいる〜!」

日の曜日。
ランディと連れ立って庭園に来たマルセルは、そこに座り込んで何か機械をいじっている鋼の守護聖の姿を見付ける。
「なんだよ、おまえ。陛下と約束してたんじゃなかったのか?」
心底嫌そうな顔で首だけで振り返った悪友に風の守護聖は実に素直な問を口にする。
確か、昨日そんなことを言っていたような気がする。
忘れることはあっても憶え間違えることはないから、多分間違ってないと思う。
「うっせーな!関係ねえだろ!」
「あ〜、判ったぁ!ゼフェル、フラれちゃったんだ!」
「え?そ、そうなのか?」
本当に驚いた様に尋ねる茶の髪の少年に、銀の髪の少年は顔を痙らす。
「んなわけねぇだろうがっ!ただ・・・なんか今日は客を呼んだからって・・・・そんだけだよっ!」
「お客様?陛下に?誰?」
頬に指を当てて、マルセルは首を傾げる。
こんなお休みの日に、しかも彼との約束まで反故にしてまでのお客様なんて、いったい誰なんだろう?
「知るかよ。でも、なんか楽しそうにしてたぜ。」
その声音に不機嫌さがありありと感じられて、友人二人は苦笑いする。

その時。
「わっ!!」
緑の守護聖のお尻辺りに突然何かがすごい勢いで当たり。
「えっ!!」
倒れそうになる体を支えようとして風の守護聖の上着を握ってしまい。
「げっ!!」
巻き添えにして鋼の守護聖の上に二人して倒れ込む。

「いててて・・・・」
「バカッ!何やってんだ!」
「ごっめ〜ん!」
なんとか起き上がったマルセルが後ろを見ると、そこには少年。
まだ幼児と言ってもいいくらいの。
多分、彼が突っ込んで来て当たったのだろうけれど・・・・
「あれ、君・・・・・?」
「おいっ!てめえが、原因かっ!!」
話掛けようとする金髪の少年の言葉を遮って、ゼフェルは小さな彼に突っかかる。
「俺様の自慢のメカがぶっ壊れたら、ど・・・う・・・?」
だが、なぜか途中で言葉に詰まってしまう。
「どうかしたのか、ゼフェ・・・・・ル?」
口が悪い少年までもが急に黙り込んだのを不審に思って、ランディも後ろから覗き込む。
そしてその原因が一目で判ってしまい、彼でさえ絶句する。

黒い髪。
金と碧の瞳。
意志が強そうな顔つき。
そして、見下すような態度。

その色と雰囲気の組み合わせには記憶がある。
まるでどこかで見た人物のミニチュア版。
見覚えが有り過ぎるその姿。

「「「レヴィアスッ?!」」」

3つの声がハモって叫ばれた自分の名に驚いたのか、幼い少年はきょとんとする。
「なんで、おっさんたち、おれのなまえしってるんだ?」
けれど聖地で1,2を争う短気な彼は、呟かれた言葉を聞きピキッと顔を引き攣らせ。
「誰が『おっさん』だ、誰が?!」
「いてえっ!」
その小さな頭をグリグリと両拳で小突く。
「てめえの方がよっぽどおっさんだっただろうがっ!」
「ちょっ、ちょっと、ゼフェル止めなよ〜。」
「そんな理不尽なこと言っても、しようがないだろ。」
マルセルとランディが止めようとした時。
ゼフェルの手からなんとか逃れようとしていた子供は、実力行使に出た。

つまり。

その小さな手から赤い光を発して。
自分を苛めていた少年の頭に目掛けて放ったのだった。

危機一髪。
「なっ・・・・・・・!!」
手を離して寸前のところで頭を避けたものの。
数本の銀糸が宙を舞い。
命の危険を久々に間近に感じたのだった。
「だから、止めなって言ったのに〜。」
あまりのことで腰を抜かしている様子の友人に溜め息を吐き。
「ごめんね、多分・・・・悪気はなかったんだと思うよ。」
よっぽど痛かったのか、色を違えたその瞳に涙を浮かべている子供にマルセルは彼に代わって謝る。
「・・・・おねえちゃんは、けっこうはなしがわかるんだな。」
小さく言われたその言葉に、今度は美少女顔であることを聖地一気にしている少年の笑顔がピクリと引き攣り。
「ごめんねぇ〜、僕、男の子なんだぁ〜。」
微笑んだままその伸びが良いほっぺを引っ張る。
「げげっ、バカッ!!」
「マルセル、やめろっ!!」
慌てて最年少の守護聖を友人達は子供から離そうとする。

「あら?ねぇ、アンジェリーク、あの子こんなところにいたわよ。」

ふと聞き慣れた声が庭園の入り口から聞こえ。
3人がそっちの顔を巡らせると同時に、顔を引っ張っていた手から逃れた小さな少年は駆け出した。
さも嬉しそうに、一人の女性の元へと。
「アンジェッ!!」
その彼を受け止めたのは、茶色の髪の少女。
柔らかな笑みを浮かべた新宇宙の女王。
「もう、勝手にどこかへ行っては駄目でしょう?」
ドレスが汚れるのも気にしないでしゃがみこんで、彼女は幼い子供の目線に合わせて注意する。
「さっきの光弾、アナタでしょう?人に当たったらどうするの?!」
そしてその黒髪の頭をコツンと叩いているのはその補佐官で。
やっと我らが女王陛下の客人が誰なのか、判明する。

「どうせ、ゼフェル達が苛めてたんでしょ。」
そのなんだかほのぼのとした光景に彼らが近づくと、この聖地の主は見事に指摘する。
「・・・・・苛めてなんかいねえぞ。」
ふて腐れながらも一応否定しておく。
「あ、あの、陛下、それでこの子・・・・・」
恐る恐るランディは金の髪の女王に尋ねる。
多分貰える答えは、彼でさえ容易に想像付くのだけれど。
「決まってるでしょ。新宇宙の民よ。」
にっこり笑って、当たり前じゃないと彼女は自分の守護聖達を見る。
「ほら、レヴィー、ちゃんとご挨拶なさい。」
自分の女王に肩を押されて小さな彼は渋々ながら挨拶する。
「おれはレヴィアスだ。まあ、よろしくたのむぜ。」
ミ・・・ミニチュアアリオス。
その物の言い様に、3人とも今度はその名前がどうしても頭を過るのだった。

「それじゃあ、宮殿に戻りましょうか。ロザリアがお茶の用意して待っているわ。」
「はい、陛下。」
女王は客人を促して、先に行かせる。
「ねぇ、あなた達、」
こそっと少女は少年達に耳打ちする。
「あの子には大きくなってからあたしが仕返しするんだから、今はまだ苛めちゃ駄目よ?」
「「「え゛?」」」
驚いた3つの顔にクスッと笑って。
彼女は客人の後を追ってドレスの裾を翻して掛けて行ったのだった。

「・・・・・・・・こ、こわい。」
「まさか、本気、なのかな・・・・・」
「ったく、誰のことだよ?慈愛に満ちた女王陛下ってのは。」
「あ〜、弱い者苛めしないのは慈愛に満ちている証拠・・・・じゃないのか?」
「ランディ・・・・ちょっとそれは苦しいんじゃないか、な・・・・・」
「まぁ、あいつらしいって言や・・・・らしいんだけどな。」

ご主人様の悪巧みに、下僕達は呆然とせずにはいられなかったのだった。


さて。
あの光の魔導弾はどうなったかと言えば。

光は光に吸い込まれるのか、光の守護聖の館に一直線に突っ込み。
その一番の責任は、彼を呼んだ少女にあるということになり。
主座の守護聖に女王はこってりと絞られ。

そして、彼女は仕返し3割増を心の中で固く決めたのだった。