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Potpourri




「アンジェ、いるぅ?」
執務室で書類に目を通していたアンジェリークは、ノックの音で顔を上げる。
「開いてるわよ、レイチェル。・・・・あれ、ルーティス、起きたの?」
「くぴっ!」
冬眠から覚めたばかりの青い聖獣は、レイチェルの肩先で可愛らしく返事をする。
「もう、春も冬も無いのに、年に一度は眠りこけるんだよねぇ、このコ。」
言葉とは裏腹に彼女の口調は優しげだ。
そんな友の様子に、アンジェは自分の聖獣を想う。
たまには逢いたいな。
「逢いたければ、逢えばいいじゃん。アナタの聖獣なんだから。」
見抜かれてる。
あははと作り笑いをする姿は、女王ではなく普通の少女だ。
「そうだ、こんなことしてる場合じゃなかったんだ。手紙の精霊、出て来ていいよ。」
パチンとレイチェルが指を鳴らすと、執務机の端に愛らしい姿の精霊が現れる。
「手紙?誰から?」
「見てみればわかるって。あっ、ワタシ、中は見てないからね。」
アンジェが精霊から受け取ったピンク色の封筒に描かれているのは、神鳥。
それは彼の地を治める女性が公式に使用するもの。
「陛下からね!」
「ねぇ、なんて書いてあるのか早く読んでよ。」
興味津々でレイチェルは体を乗り出し、ルーティスは執務机に転がる。
「くぴぴっ!」
「あぁ、ゴメンって。アンジェ早く!」
聖獣は、おもいっきり不平の声を上げる。
それをなだめる友の姿に苦笑いしながら、この宇宙を治める女王は封を開ける。
「くすくす、わかったわ、レイチェル。・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ!」
手紙に目を通すと、アンジェリークは蒼い瞳と口を丸くする。
「なになに、何が書いてあったの?いいこと?悪いこと?」
「うん、実はね・・・・・・」
にこにことしながら、アンジェは便箋に書かれていたことをレイチェルに話したのだった。


「あら、レヴィー様。」
女官に声を掛けられ、レヴィーは歩みを止める。
「陛下とレイチェル様が先ほどまで、探しておられましたよ。」
アンジェとレイチェルが?
彼は眉を潜める。
今日の分の勉強は終ってるし、つまみ食いもしてないし、花畑を荒らすほどもう子供じゃないし。
なんかやらかしたっけ、俺。
怒られると決め付けるのは、なにか後ろめたいことがある証拠なのだが。
そんなレヴィーの心中を知ってか知らずか、女官は2人の行き先を彼に教える。
「聖地からお客様が見えられるみたいですよ。」
聖地?
その言葉に、やらかしてねぇわけがないと気が付く。
とうとう引導渡されるんかな、俺。
覚えてもいない過去の大罪の責を問われて。
・・・・・ま、それも仕方ねぇか。
そして、黒髪の少年は次元回廊の扉がある宮殿へと足を向けたのだった。


「ようこそ、いらっしゃいました。お久しぶりです、リュミエール様、オスカー様、オリヴィエ様。」
女王はドレスの縁を持ち上げ、お辞儀する。
そんな彼女の女王としての成長に、3人は目を見張る。
彼らにとっては、最後に別れた時はついこの間なのだから。
「ご丁寧に、ありがとうございます。」
「新宇宙の陛下に置きましては、ご機嫌麗しゅう。」
「日々の女王のお務め、鏤骨になってない?」
軽口叩く夢の守護聖を、炎の守護聖は肘で小突き水の守護聖はらしいと苦笑いする。
それを見てアンジェとレイチェルは昔に戻ったようと懐かしむ。
「そんな型式ばらなくてもいいんじゃないですか、オスカー様。」
「いや、俺達は公務としてきたんだ。遊びに来たんじゃないんだぞ、レイチェル。」
「でも、ワタシにはかしこまらないんですね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、そうだな。」
「ぷっ、あんたの負けだよ、オスカー。」
「いいじゃないですか、オスカー。ここは私たちの宇宙ではないのですし。まったく知らない間柄でもありませんしね。」
そんな、相手が遠く感じられる話し方をしなくても。
いいんじゃない?
「わたしも昔みたいに話してくれた方が嬉しいです。」
「・・・・そうか?」
「くぴっ!」
アンジェの代わりに、レイチェルの頭の上のルーティスが返事をする。
「ほら、ルーティスもこう言ってるし。」
聖獣にまで言い負かされ、オスカーはなんとも言えない顔をする。
それを見て、他のものはくすくすと笑う。


誰だろう?
宮殿の次元回廊近くまで来たレヴィーは廊下を曲がろうとして、笑い声に足を止める。
そして見てしまった。
自分が見たことが無いアンジェの笑顔を。
あいつのあんな顔、見たことが無い。
自分に向けるアンジェの笑顔は、悲しみを帯びているか、さもなければまるで弟に向けるような笑顔だ。
あんな楽しげな、普通の少女としての笑顔なんて、俺は見ていない。
なんだよ?!
レヴィーの胸の中に黒くどろどろとしたものが渦巻く。
昔一度、これに似た感情に襲われたことがある。
あれは、張り合う相手が悪かった。
けれど今度は。
今、目の前に広がる光景は。
俺の事が好きなくせに。
なんで笑うんだよ、そんな男に。
ムカムカムカムカ・・・・・・・
キッと顔を上げると、レヴィーはズカズカとアンジェに向っていったのだった。


「きゃっ!」
突然後ろから抱きすくめられ、アンジェは声を上げる。
かすかに首を回して見ると、黒髪の少年。
「レレレレ、レヴィー!急に何てこと・・・・・・って、ちょっと!」
そのまま客人を睨み付けたまま、女王をズルズルと引きずりながら下がっていく。
あまりのことに残された4人と1匹は、おめおめと見送ってしまう。
「・・・・・・・・・・あの、なんだったんでしょうか?」
「さぁ、なんだろうねぇ?」
「俺の事、睨んでなかったか?」
「それは自意識過剰ですよ。」
「くぴくぴっ。」
ぴしゃりと言い放たれ、オスカーは落ち込む。
「お3人とも睨み付けてましたよ、あのコ。」
「なにか悪いことしましたでしょうか?」
「きゃはは、単なるヤキモチでしょ。」
「今まで焼く相手なんて、形としていなかったですもん。」
しみじみ。
レイチェルは思う。
「なぁ、あの坊や、いくつだ?」
「13、だったかな?」
尋ねられて、育ての親は指折り数えて答える。
「それにしては、やけにでかくないか?」
「そういえば、そうですね。」
今まで比べる相手がほとんどいなかったので、気が付かなかったが。
言われてみればそうだ。
アンジェと対比して見ると、その差が10cmくらいある。
もちろん、レヴィーの方が大きい。
「なんだか生き急いでるみたいだねぇ。」
「オリヴィエ、なんてこと言うんですか!」
その言葉にレイチェルは、ハッとする。
もしかして、早く大きくなりたい?
アンジェリークの為に・・・?
「・・・・・・・そうなのかも。」
「レイチェルまで。」
空恐ろしいことを言う2人にリュミエールは難色を示す。
「だが、図体ばかりでかくても、俺に言わせりゃまだまだだな。」
「中身が伴ってなくっちゃねぇ〜。」
「2人とも・・・・。でも、その方が私たちも来た甲斐がありますね。少しでもお役に立てれば幸いですよ。」
そう言って、聖地の女王陛下から遣わされた中堅守護聖は意味ありげに笑うのだった。


「レヴィー、どうしたの?」
やっと解放され、アンジェリークは黒髪の少年に首を傾げながら尋ねる。
いくらやんちゃだと言っても、こんな事するような子じゃないのに。
引きずられながら考えたのだけれど、どうしてもわからない。
「レヴィー?」
顔を覗き込みながら尋ねる女王に、レヴィーはちょっと不機嫌になる。
じっと見つめる蒼い瞳が彼を苛立たせる。
どうして怒らないんだよ。
頭ごなしに怒られた覚えが、彼には一度も無い。
いつも怒るよりも先に、どうしてそういう行動に出たのかを尋ねる。
それも小さい子を相手にするように思えて。
この頃、その辺が引っかかる。
「・・・・・あの方たちね、あなたに逢いに来たのよ。」
レヴィーが黙っていると、諦めたのか彼女は客人の話をする。
それを聞いて、やっぱりと思う。
俺を断罪しに来たんだ。
ましてや、目の前で女王をさらうようなことをしたのだ。
きっと更に怒りも倍増だろう。
「あなたにね、色々なことを教えたいんだって。」
何?!
少年は眉を潜める。
「陛下がね、わたしたちだけでは教えることも限界があるだろうって、お遣わせあそばされたのよ。」
その顔に意味が伝わらなかったのかと、アンジェはまた覗き込むように話す。
けれど、今度は苛立ちはしなかった。
否。
苛立っている余裕が無かったのだ。
聖地の女王が?
俺の為に?!


「オカリナ、ですか?」
「えぇ、オカリナです。」
アンジェがオウム返しに尋ねると、水色の髪の芸術家はにっこりと笑う。
「そう、ですか・・・・・」
「えぇ、私は笛はあまり専門ではないのですが、なかなか筋は良いと思いますよ。」
今度はマルセルに来させましょうか?
そうリュミエールは微笑むのだけれど。
アンジェの心中は複雑だった。
だって、オカリナは・・・・・
彼にとって、正確には彼の前世だった者にとって、特別な想いを寄せる楽器だったから。
いや、想いを寄せていたのは楽器では、ない。
それを知っている、知ってしまっている自分にとってそれは。
なにか新しいことにレヴィーが興味を持ってくれたのを嬉しい反面、またいなくなってしまうのではないかという不安も心をよぎる。
「やだな・・・・・ いまさら死んだ人にヤキモチだなんて。」
執務室で一人になり、窓の下をぼんやりと見ながら呟く。
前のことなんて関係ないって。
そう思うのに。
レヴィーにだって、レイチェルにだって、そう言ったのに。
一番それを気にしてるのは、ひょっとしたら自分なのかもしれない。
「どうしたらいいの、わたし・・・・・・」
焦りばかりがアンジェリークの心を占める。
人の心は移ろいやすい。
いつか。
そう、いつか。
彼が成長しきる頃には、自分が嫌われているかもしれない。
そんな、第三者から見れば有り得ないような考えが、彼女の中で日に日に成長していくのだった。


そして、女王が見つめる眼下では。
「ほら、脇が甘いぞ、坊や!」
くっそー!
坊や坊やって!
なんだよ、こいつ!
無茶苦茶強いじゃないか!
いつもなら、警吏隊長にだって負けやしないのに。
レヴィーがどんな打ち込み方をしても、軽くかわしてしまう。
その上懐に飛び込んだとたん、柄で叩かれ彼は地に倒れる。
悔しいけれど、遊ばれてることが文字どおり痛いほどわかる。
まさに大人と子供。
月とスッポン。
刃さえ交えてもらえないのだから。
それでも、レヴィーは炎の守護聖に挑む。
強くならなきゃいけないからだ。
どんな奴よりも。
俺が。
あいつを。
守れるようにならなきゃならないんだ!
「おっと!隙だらけだな、坊や。」
レヴィーの背を柄で叩き付けながら、内心オスカーは舌を巻く。
13でここまで出来りゃ、上等だ。
ランディなら今の彼の力でも、簡単に打ち負かされるだろう。
天下の才というか、末恐ろしいというか。
自分と同じ歳になる頃には、今度は自分が手も足も出ないだろう。
昔、一緒に戦っていた時よりも更に強くなると確信する。
このオスカーよりも剣に賢しいものがいようとはな。
少年というには大きすぎる背丈の者の太刀筋を避けながら、オスカーは自嘲気味に笑う。
そこに油断が生まれたのか。
「チッ!」
オスカーの頬を彼の剣が掠める。
まったく、気を許せない坊やだな。
少しでも他事を考えると、危うく命までも取られかねない。
それ程に気迫を持った剣だった。

「やるねぇ〜。オスカーに掠り傷を負わせるなんて、なかなかできないことだよん☆」
パチパチと拍手しながら、派手な男が近づいてくる。
「なんだ、極楽鳥。嫌味か、それは。」
「誰が極楽鳥だって?」
ダガーを抜き去り、オリヴィエはオスカーの頬、ちょうど血が滲み出ているところに当てる。
「おっ、おいおい、坊やが驚いてるじゃないか。」
そう。
確かにレヴィーは驚いてはいた。
いたのだが。
別にダガーを傷口に当てたことに驚いたわけじゃない。
レヴィーには彼がダガーを抜き去るところが見えなかったのだ。
早い。
確かに目の前で起こったことなのに。
まじまじと、ダガーを見つめる。
「ん〜、どうかした?」
そして、オリヴィエの顔と見比べる。
人は見かけじゃない。
レヴィーが生まれて初めてその言葉を実感した、一瞬だった。
「あっ、ダガーを教えて欲しいんだ〜。そうだよねぇ、腑抜けの剣の師匠なんて、いらないよね?」
「コラ、まて。誰が腑抜けだ。」
「アンタだよ、ア・ン・タ☆」
こうして、レヴィーは夢の守護聖からダガーを習ったのだった。


「ご苦労様でした、皆様。」
にこやかにアンジェリークは微笑む。
わずか一週間ばかりの滞在ながら、レヴィーが彼等から教わった事は多い。
ましてや今まで教育係といえば、アンジェかレイチェルだったのだ。
異性である彼女たちには計り知れない、同性から教わる事もあるだろう。
「レヴィー、あなたからもお礼を・・・・・って、レイチェル、レヴィーは?」
「さっき、出てったわよ。」
気付かなかったの?
レイチェルは親友の注意力無さを指摘しながら、カップに口をつける。
「もう・・・・・ すいません、いつもはあんな子じゃないんです。」
「それは、この一週間で私たちも判ってますよ。」
「なかなかいい根性してるしな。」
「ちょっと無口だけどね☆」
まるで自分が悪いことをしたかのように小さくなる女王に、3人は率直な感想を述べる。
「そういえば、このごろ無口よね。」
「まぁ、思春期だから仕方ないんじゃない?」
「そんな、ものでしょうか?」
「俺に聞くな。」
確かに口数が少ないことには、アンジェも気が付いていたけれど。
それでも、この一週間はなんだか・・・・・・
「わたし、レヴィー捜してきます。」
アンジェは立ち上がる。
「ほっときゃいいって。」
「ううん、やっぱりちゃんとお礼を本人から言わせないと。あの子の為にもなりません。」
まるで教育ママ。
その場にいた誰もが思ったけれど、口には出さなかった。
たぶん、それは口実なんだと感じたから。


「レヴィー、やっぱりここにいた。」
花畑でレヴィーが寝転がってると、頭の上から少女の声が聞こえた。
どうしてここにいることが判ったんだ?
「昔から一人になりたい時には必ずここに来るでしょう、レヴィーは。」
お見通しよ。
そう言われて、なんだか居心地が悪くなる。
俺って、そんなに単純か?
「座っていい?」
いちいち俺に断らなくても、ここはおまえのものだろう?
そう思いながらも、こくんと頷く。
頷いたのを見て、アンジェはレヴィーの横に座る。
そしてそのまましばらく沈黙。
なんだぁ?
寝転がったまま、彼は座り込んで自分を見つめる彼女を見返す。
そうしているうちにアンジェは、ふっと笑う。
初めて自分に向けられたその笑顔に、少年はドキリとする。
そんなことに気を取られていると、不意に頬に柔らかな茶色の髪が落ちて来て、唇には更に柔らかいものが触れる。
うそ、だろ?
なぜか真っ先に浮かんだ言葉がそれだった。
目を見開いたままのレヴィーを、アンジェは切なそうな顔で見る。
「いや、だった?」
その言葉に、ブンブンと音がしそうなくらいの速さで首を振る。
我に返ったせいで、少年は首まで真っ赤だ。
「よかった、嫌われたらどうしようかと思っちゃった。」
えへっと少女は笑う。
また初めて見る笑顔だ。
ひょっとして、自分を一人前だと認めてくれたのだろうか。
嬉しさの予感が心に浮かぶ。
「嫌いになんて、なるわけないだろう。」
起き上がりながら、彼はぽつりと言う。
「いつだって、おまえを守る為に生きているのに。」
レヴィーは拳を握り締める。
それだけが今の彼の真実。
「まぁ、あいつらのおかげで俺もまだまだだって、わかっちまったけどな。」
苦笑いで彼がアンジェを見ると、青玉の瞳が零れ落ちそうなくらい驚いている。
なんか、そんな目を見張るようなこと言ったか。
すっごい照れくさいことは言ったが。
「レヴィー?」
「なんだよ。」
「声。」
「はん?」
「いつ、声変わりしたの?」
へ?
アンジェの指摘に少年は「あ〜」だの「は〜」だの声を出してみる。
「げ、ホントだ。」
確かになんか喉がいがらっぽいなと思って、喋るのがいやになってたけど。
声変わりだったのかぁ。
のんきにレヴィーはそう思う。
アンジェには一大事件にもかかわらず。

「レヴィー・・・・・」
なんだか湿っぽい声に少年はギョッとなる。
「なっ、なに泣いてるんだよ。」
「ご、ごめん。なんでもないの。」
「なんでもないわけないだろう?」
急いで涙を拭おうとする腕をレヴィーは掴む。
「隠すな。」
「だって・・・・・・」
言ったらきっと嫌いになる。
そう思うとますます目に涙が溜まる。
「言うまで放さないからな。」
有無を言わさぬ口調とそれ以上の意志の光を放つ2つの瞳。
逆らえない。
アンジェはそう直感した。
「同じ声だって、そう思ったの。」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、白状する。
「昔のあなたと同じ声だって。ごめんなさい、関係ないって言ったのに、結局わたし・・・・・っ!」
なおも自分を追詰め謝ろうとするアンジェの口は塞がれる。
レヴィーのそれによって。
「・・・・・・別に、いいんじゃないか。」
「レヴィー・・・・・・・」
「どうだっていい、そんなこともう。」
やけっぱちなセリフの割には、口調は明るい。
「今ここにいるのは、『アリオス』でも『皇帝』でもない。俺なんだよな。死んじまった奴におまえは守れない、よな。」
「嫌じゃ、ないの?」
「同じで当然だろ。俺だったんだから。」
あっけらかんと言い放つ黒髪の少年に、蒼い瞳の少女は気が抜ける。
「大丈夫だって。みんな俺がいい男になるように、計らってくれてるんだし。」
「?」
「過去を思い出すのも比べるのも、馬鹿らしくなるくらいの男になってやるって。」
「・・・・・・もう、レヴィーったら。」
アンジェリークはレヴィーに、涙目でくすくすと笑うのだった。


「アンジェ、今頃驚いてる頃かなぁ。」
「くぴっ!」
「ほんとに気が付いてなかったんですか?」
「えぇ、だって一言も、ただの一言も話さなかったんですよ、この一週間。」
「まぁ、思春期だから、話しづらい時もあるよねぇ。」
「そういうもの、なんですか?」
「だから、何故俺に聞く!」
「オスカー様はそういう事に詳しそうだからじゃないですか?」
「くぴくぴぴ。」
「えらい誤解だな。」
「でもさぁ、あんなに背が高くてこの間までボーイソプラノだったって事の方がわたしには笑えるんだけど。」
「ふふふ、それもそうですね。あの・・・・・」
「俺に聞くなよ!」
「違和感感じなかったワタシはどうなるんでしょう?」
「きゃはは!毎日顔あわせてたら、そんなのわかんないって。」


それにしても。
凄い男捕まえたよなぁ、アンジェも。
それは、彼に接した誰もが思う共通の感想だった。
彼なら。
彼ならば、彼女と共にこの宇宙を支えていけるだろう。


それが確信に変わるまで、あと、もう少し・・・・・・・・・・・・・