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Sunny Day
3月のとある麗らかな日曜日。
「ねぇ、レヴィアス?」
奥様はふと思い、ソファーに座って新聞を読んでいる旦那様に訊ねる。
「・・・・ん?なんだ、アンジェリーク?」
柔らかな笑みを湛えて紙面から自分へ動いた視線に微笑みながら、彼の隣へ座る。
「あのね、もうすぐホワイトデーでしょう?レヴィアス、お返しとか用意しなくていいのかなって・・・・」
その妻の言葉に、レヴィアスはテーブルの上の彼女がさっきまで見ていたものに目をやる。
自分が見ているものに折り込まれていた紙の束。
そこに大きく書かれている文字は、どれもこれも似たようなもので。
いわゆる季節商戦なのだろう。
ご苦労なことである。
だがそんな考えとは別に、彼は笑って問い返す。
「クッ・・・・珍しいな、催促か?」
「え?・・・・・・・・・催促?」
しかし少女は彼の言うことが一瞬判らずきょとんと首を傾げ、そしてハッと気が付いて慌てる。
「ちっ、違う、わたしへのじゃなくて・・・・わたしのは、いいの。」
「・・・・・・・・・じゃあ、なんだ?」
「会社とかで、貰ったり・・・・・しなかったの?」
少し不満げに眉を顰めた顔にまた怒らせたかと思いながらも、アンジェリークは更に訊ねる。
「俺はおまえからしか貰わないと言ったはずだ。」
案の定、旦那様は見上げる妻に幾分低くなった声で答える。
「で、でも・・・・・」
「それとも、俺が他の者からのチョコレートを持っているのを見たのか?」
「見て、ないけど・・・・・でも・・・・」
言い澱む少女に片眉を上げ、レヴィアスはその顔を覗き込む。
「でも・・・・なんだ?」
「前は、いっぱい貰ってた・・・わよね?」
身内から。
取引先から。
はたまた、玉の腰狙いの者から。
それを知っている彼女は、確認を込めて上目遣いで彼を見つめ返す。
「クッ・・・・・バカだな。」
その澄んだ蒼い瞳に頬を緩めて笑い、少女の耳に掛かる茶色い髪を梳き上げる。
「だとしても、だ。俺自身が返してるのを見たことがあったか?」
「・・・・・・・え?」
「俺は届いたものを放って置いただけだけだぞ?」
受け取ってもいないと断言する旦那様に、アンジェリークは過去の光景が思い浮かぶ。
「そ、そういえば、そうかも・・・・・・」
「だろう?」
喉を鳴らし満足そうに笑う彼を見ながら、彼女は今頃どこかで苦労しているだろう誰かに心の中で謝る。
「だがやはり、おまえには心ばかりの返礼をしないとな。」
しかし突然抱き寄せられて、思い耽っていた思考を現実に戻される。
「だから、わたしはもう貰ったからいいってば・・・・ものも、心も、もう十分だから・・・・」
真っ赤になって見上げて断りを口にしても、彼は口の端を上げたまま見下ろしている。
こうなってはアンジェリークでもレヴィアスの意思は動かせない。
そんな困っている桜色の唇に一つくちづけて、旦那様は奥様に満面の笑みで約束する。
「ホワイトデーを楽しみにしてろよ、アンジェリーク。」