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Late riser




「起きろっ!」
「ヤだっ!!」

息を吐けば、白く煙るこの季節。
寒さを喜ぶのは馬鹿な犬ぐらいで。
誰も彼も暖かい寝床から出るのは困難を要する。
そこはこの世の天国なのだから。

そして、それは彼の少女もご多分に洩れずなのは言うまでもないこと。
先にベッドを抜け出した青年は、起きる時間になっても彼女が起きてこないのに気が付いて。
覗いた寝室には、やはり天使が横たわったままだった。


「朝だっつってんだろうかっ!!」
「まだ、外、真っ暗だものっ!!朝じゃないわっ!!」
彼は掛けられた上掛けを剥ごうとするが。
よっぽど寒いのが嫌なんだろう、彼女は精一杯の力で引っ張り。
力を加減しているとはいえ、銀の髪の青年は布団を捲るのに成功せず。
それが勘に障って怒りに油を注ぐ。
「おまえ・・・・・んな、ガキみてぇな言い訳するなっ!!」
「だって寒いんだもん!!」
そう言うなり、潜ってしまう。

こいつ・・・・・
ほんっとに起きる気ねぇな。
確かに、今朝は今年一番の寒さだが。

怒りを通り越して呆れながら、丸く盛り上がったベッドをしばらく眺めていたが。
諦めたように溜め息を吐き、髪を掻き揚げてその縁に座る。
「ったく、いい加減にしろよ。」
足を組みながら、出来るだけ冷静に話掛ける。
「起きねぇと困るのは、おまえだろ?」
「・・・・・・・・まだ眠いからヤだ。」
「だったら、何で早く寝・・・・・・・・・・っ、悪かったよ。」
彼女の不手際を咎めようとしたがその原因が自分にある事に気が付き、ばつが悪そうに謝る。
「でも、俺はちゃんと起きてるんだぜ?おまえも起きろよ。・・・な?」
「あなたと違って、どうせわたしは子供だもん。」
だからまだ寝るの。
くぐもった声でへ理屈こねる少女に、怒るどころかかえって苦笑してしまう。

いつまで経っても、本当に子供。
思わずそういう感想が出てしまう。
子供に手出した覚えはないし、子供じゃないこともよく知ってるにもかかわらず。
けれどその表情は時として幼くも感じ、だが酷く大人びても見える。
不思議なこと、この上ない。

「・・・・判った、ここに飯持って来てやるよ。それまでには部屋も暖まるだろ?」
「ほんとう・・・・・?」
「あぁ、ホント、ホント。」
ひょこと覗いた茶色の髪と蒼い瞳にしかたねぇなと笑い立ち上がる。
そして、部屋の隅に置いてあるオイルヒーターを点けて振り返る。
「だから、起きろよ。」
甘いなと思いながらも、つい甘やかしてしまう。
結局弱いのだ、彼女と言う存在そのものに。

「いい子で待ってろ。」
「うん♪」


だが、朝食を載せたトレーを持った青年が寝室で再び見たものは。
ぐっすりと眠っている天使の安らかな寝顔だった。
「っ!!」
それを見て彼は思いっきり顔を引き攣らせ。

「だから、寝るなっつってんだろっ!!何度言わせりゃ気が済むんだっ、この馬鹿っ!!!」

一瞬後、怒号が部屋に轟き響く。
そして今度こそ布団を剥いで、少女に悲鳴を上げさせたのだった。