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Selfishness
「もうっ!なんか理由付けてすぐこっちに来ちゃうんだから。」
この宇宙の女王は呆れながらお茶を入れて、本当は歓迎すべきではない招かざる客、もしくは、気の遠くなるほど遠くに住まう恋人の横に座る。
「あんまり怒るな。おまえに逢いたいと思うのはそんなに悪いことか?」
「そ、そうじゃなくて・・・あのね、悪いのは、そう思ったらなにがあろうとすぐに逢いに来ちゃうことっ!」
「やるべき最低限のことはしてるぞ。それに、これでも我慢してるんだが?」
偽りのない本音を真顔で答える青年に、少女は彼に仕える人々の苦悩が手に取るように判ってしまう。
可哀相に。
そうは思うが、何もしてあげられない。
そんな自分がちょっぴり哀しかったりする。
「それで・・・向こうの様子は、どう?」
溜め息を吐いたアンジェリークから不意に尋ねられ、レヴィアスは眉を顰める。
「まぁ、悪くはないが・・・なんだ、カインから報告が届いてないのか?」
まさか補佐官レベルで止まってしまっているのだろうか?
一瞬そう思ったが。
何か問題があるのならともかく、たかが報告書、あの金の髪の補佐官がそんな中途半端なことをする訳がないと思い直す。
「届いてるし、ショナ君からも時々話も聞いてるけれど、わたしはあなたの口から聞きたいの。」
「は?・・・・なんでだ?」
少し頬を膨らまして自分を見る少女に、青年は戸惑う。
「だって、あの世界はあなたを必要としているんだから。」
尋ねられて、アンジェリークは柔らかに表情を緩める。
「あなたが必要とされる世界だから、あなたから直接聞きたいの。」
「必要と言っても、あれはほとんど雑用に近いものがあるぞ。」
「いいの!雑用でも苦情係でもお役所仕事でも。」
何故か怒ったように力説し断言する彼女に、彼は圧倒される。
「・・・・・・ずいぶんと乱暴なものの言い方だな。」
「そう?でも、レヴィアスほど強引じゃないと思うけど?」
青年の肩に頭を凭れて、少女はいたずらっぽくクスッと笑って口元に指を寄せる。
その見上げる顔をレヴィアスは呆気に取られしばらく見惚れていたが。
フッと口端を上げてその手を取り、気取ってくちづける。
「わが女王の願いなら、聞き届けない訳にはいかないな。」
「レヴィアス?」
唐突すぎる申し出が理解できず、彼女は首を傾げて自分の手と彼の顔を交互に見比べてしまう。
「どういう、こと?」
「つまり、だ。」
「なに?」
少女の肩を抱き寄せて、その頤に手を掛ける。
「おまえは、直接、報告を聞きたいのだろう?」
丸く開いた桜色の唇に軽くキスを落す。
「なら、もっと頻繁に逢いに来なければならないな。」
「え゛っ?」
彼が悪巧をする時のニヤリとした笑みに、アンジェリークの背筋に冷や汗が浮かぶ。
「あ、あの、別に、そんなに頻繁に報告してもらわなくても、レヴィアスだって忙しいんだし・・・」
「いや、数少ないおまえのわがままだ。叶えてやるぞ。」
「で、でもね、私だって、執務・・・が・・・・」
慌てて思い留まらせようと口を開くが、その前に塞がれて。
彼女を知り尽くした実に巧妙なそのくちづけに力が抜けてしまい、解放されてもまともに言葉を紡げず。
彼の胸で懸命に息を整えることしか出来ない。
「それに・・・・」
肩で息をしている彼女の耳元で囁く。
「なにより、おまえに寂しい思いをさせる訳にはいかないしな。」
ククッと笑ったことを頬に感じ、さらに自分の心の中を見透かれて、少女はムッと眉を寄せる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!も、もうっ、レヴィアスの馬鹿!」
ただ、その顔は朱に染まりきって。
口元には微かに嬉しそうな笑みが浮かんでいたが。
「おまえに馬鹿呼ばわりされるのなら、本望だ。」
クッと笑い、レヴィアスはそんなアンジェリークに目を細め。
無理矢理に取った休暇を満喫したのだった。